sync4

by psychiatrist / contributor for Cookie Scene music journalism publication since 1997 to2009. web magazine launched in 2010.

REVIEW スピッツ『小さな生き物』

 http://cookiescene.jp/2013/09/universal-2.php

このレビューは実はその後に以下のような創作が続きます。あまりにも主観的なためカットしましたが、クッキーシーン掲載レビューの通低音を小説風に書いたものです。

 

 

 ここからは余談だ。2001年9月末のある日の個人的な記憶。その日、久しぶりに会った彼女はうつむきかげんだった。肩を覆う黒髪は身を守る鎧、なぜかそう感じた。少しだけ歩いて彼女は石段にしゃがみこむ。かすかに疲れを感じる表情、2週間前に起きた同時多発テロが彼女に何らかの影響を及ぼしていたのかもしれない。夏の終わりなのに彼女の吐く息が見える気がした。白い卵形の顔に少しだけ眉をひそめて、彼女は耐え忍ぶ表情をしていた。レディオヘッドが『KIDA』、『Amnesiac』をたずさえて行う来日公演が間近だったその日、彼女の好きなスピッツと、そのレディオヘッドの因果関係について話した。一見そぐわないかもしれない。ゆるくおだやかな曲を奏でる国民的ロック・バンドと、かたや世界の終末を鳴らす化け物集団。でも両者には共通した何かがある。スピッツは小学校唱歌になりそうなくらい朗らかなフォーク・ソングに聴こえるけど、その実、普通ではない哀しみをたたえている。青春の輝きを歌うかに見えて、彼ら自身はそこにはいない。もう全ては終わっているのかもしれない。大切な誰かはもうこの世界にいないのかもしれない。だからこそ全ては永遠の輝きに変わる。その有り様はレディオヘッドの世界観に類似する。別の角度から捉えた変奏曲とすら言えるかもしれない。しばらくその命題について話した後、彼女はこう言った。「スピッツの曲を聴くと、いつもなつかしい、安堵する空気に包まれます。でも一方でまったく別の何かも感じるの」。そして続ける。「昏い海の底から、まがまがしい何かが私をさらいに来る、そんなイメージ」。彼女はうつむきながら、口元にかすかな笑みを浮かべた。それから10年以上、その意味を考えている。我々ひとりひとりが抑圧し、精神の海の底に沈めている過去の体験、そこから浮上し潜水病に陥らずに空に飛び立つこと。そして確かな足どりで旅に出ること。

 

Remove all ads